ビクトリア Tomas Luis de Victoria (1548-1611) |
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トマス・ルイス・デ・ビクトリア Tomas Luis de Victoria |
ルネサンス後期のスペインの作曲家。 「ヴィクトリア」とも書かれるが、現地の読みは「ビクトリア」のほうが近い。 パレストリーナ、ラッススと並ぶ後期ルネサンス最大の作曲家であり 特に教会音楽に関してはルネサンス最高の大家とされている。 細かく分類すれば、23歳年上のパレストリーナ(1525年生)や 16歳年上のラッスス(1532年生)よりも一時代後の作曲家と言ったほうがいいかもしれない。 |
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《生涯》 |
1548年にスペインのアビラで生まれた。 10代でローマ・イエズス会のドイツ学院に留学し聖職者として音楽教育を受けている。 当時、同じイエズス会のローマ学院ではパレストリーナが楽長を務めており ビクトリアがパレストリーナに学んだ可能性は極めて高いと考えられている。 因みにドイツ学院は海外の留学生が、ローマ学院はイタリア人が学ぶ場であった。 1571年にビクトリアはパレストリーナの後継者としてローマ学院の楽長に就任し 続いてその2年後には母校であるドイツ学院の楽長にも就任した。 ローマでは他にも教会の司祭を勤めるなど重要な職を歴任した。 これらから極めて優秀な人物であったことが伺える。 1580年代後半には地元スペインでの聖職者の地位を希望してこれが認められ、 スペイン王フェリペ二世の妹に当たるマリア太后に仕えることになった。 以後、ビクトリアは生涯に渡ってこの地位にあり続けた。 最大の代表作である「6声のレクイエム」もマリア太后の葬礼のために作られている。 |
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《音楽の系統》 |
図)楽譜:死者のための聖務曲集(Officium Defunctorum) ビクトリアの音楽は主に3つの系統の融合と考えることができる。 1.スペイン教会音楽 ビクトリアはローマ留学以前にスペインで音楽を学んでおり、 そこで先達であるモラレスやゲレーロの宗教音楽に接したと見られている。 初期のミサ曲の中にモラレスやゲレーロの曲を定旋律に使ったものが残されている。 また若い頃にはオルガンの大家カベソンの演奏を直接聴いた可能性もある。 2.パレストリーナ様式 ビクトリアに一番大きな影響を与えたのはおそらくパレストリーナであろう。 パレストリーナ様式はルネサンス後期の最も完成された音楽であるが ビクトリアの音楽もほぼこの様式に準じている。 3.ヴェネツィア楽派 当時ヴェネツィアではバロックの原型とも言うべき 非常に新しい試みが行われていたが ビクトリアはこの音楽も自らの中に取り入れている。 ビクトリアの音楽は様式的にパレストリーナの後継者に位置づけられる。 しかしパレストリーナの曲が完成度を追求するあまり画一的になったのとは異なり、 より自由であり、かつスペイン的な表現の激しさや表情の豊かさを持ち合わせていた。 また、ヴェネツィア楽派をはじめとした実験的な音楽も積極的に取り入れており 分割合唱や器楽伴奏を伴うミサの作曲も行っている。 ビクトリアは世俗音楽を一切作曲しなかったことで有名である。 これは当時としては非常に珍しいことであった。 もっとも、世俗音楽に求められた自由な表現は ビクトリアの手にかかると完全に宗教音楽の中に取り込まれてしまうのであるが。 |
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《演奏史》 |
20世紀においてビクトリアの評価を高めてきたのはイギリスの団体であった。 中でも教会合唱団は代々ビクトリアを得意としており録音点数も多かった。 しかしその反面、どの団体も演奏のスタイルが似通っており ビクトリアの持つ曲の多様性を表現しきれてないと評されることも事実であった。 20世紀後半になると、教会合唱団だけではなく、 高度なコンサートスタイルによるイギリスの声楽アンサンブルが 積極的にビクトリアを取り上げるようになった。 これに伴い、ビクトリアの多くの曲が再評価されるようになっていった。 20世紀においてビクトリアの評価を高めてきたのはイギリスの団体であったのだ。 一方、地元スペインの団体は、長くイギリスに押され気味で ビクトリアの曲を積極的に取り上げていないようにも思えた。 しかし21世紀に入った頃からようやく演奏が増え始め、 イギリスの近代的な演奏とは一味違った スペイン独自の表現を聴くことができるようになった。 地元スペインの教会では伝統的な聖歌が歌い継がれてきた歴史がある。 しかしルネサンスのような古い音楽の場合、 それが形を変えずに残されてきたとは言い難い。 口伝のような伝統と、近年の古楽研究成果の どちらに説得力を認めるかは意見の分かれるところであろう。 いずれにしろ、演奏の多様化は、聴き手にとっては楽しみが増えることになり、 また作曲家自身の評価向上にも繋がるので大歓迎といえる。 ビクトリアほどの音楽家であれば、 今後更に他の国の演奏家の参入も期待していいのではないだろうか。 |
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